セメントの各種体積変化評価

コンクリートの体積変化は、1)コンクリートの物性(強度、ヤング率)の変質、2)鉄筋コンクリート部材の性能(耐力、剛性、エネルギー吸収能力)などに影響を及ぼすため、物性の評価・予測、および制御方法の確立が不可欠です。物性測定方法も確立されていないので、試験方法の開発を行うとともに、さまざまなメカニズムの開発、製品の開発を行ってきました。また、国際的にも、LarfargeHolcimとの国際共同研究、欧州ERICAプロジェクトへの貢献、ICCC(International Conference on Cement Chemistry)での基調講演・Boardmember、などこの分野において貢献を行ってきました。

また、研究テーマとしては、基礎研究の他に

・収縮低減剤の作用メカニズムの解明と新材料開発

・含水軽量骨材を用いた線膨張係数制御方法の提案

・セメント硬化体の乾燥収縮メカニズムの解明(C-S-Hの動的変化)

・粗骨材ーモルタルにおける体積変化に起因する熱・乾燥による強度変化メカニズムの解明および高強度材料開発理論の提案、調合理論の提案

・コンクリートの乾燥収縮ひずみ予測

・数値解析用の構成則の開発

・長期物性予測モデルの開発

などで社会に貢献してきました。もし、材料物性の評価、新材料開発、などにご興味のあるかたは、丸山・i.maruyama@nagoya-u.jpまでご連絡ださい。

乾燥収縮

コンクリートを作るときには,水,セメント,砂,砂利を基本として練り混ぜて製造します。セメントと水の比を変えると,コンクリートの強度をはじめとする物理的性質,どろどろの状態から強度が出始めるまでの時間や,どろどろの状態の時の流れ易さなどが変化するので,施工条件や設計条件をもとにコンクリートの材料比,特にセメントと水の比を変化させます。

通常はセメントが水と反応するのに必要な水の量よりも多い量を用います。これは,流動 性を確保して,型枠の中にコンクリートを適切に流し込む要求に応えるためです。その結果,コンクリートの中には,十分反応が進み,強度が出た後でも蒸発可能な水が残ることになります。この蒸発可能な水が周囲の環境条件に依存して,蒸発するとコンクリートが 縮みます。これを乾燥収縮といいます。この乾燥収縮は,構造物中の部材に生じると,収縮しようとする部材の変形を他の部材が妨げるので,部材には引張り力が生じてしまいます。これが,乾燥収縮によるひび割れです。

私たちは,現在までに,100年来の問題であった乾燥収縮メカニズムについて,様々な現象を統一的に説明できるHydration Pressure Theoryを提案しました。また,高炉スラグ微粉末を用いた場合,収縮低減剤を用いた場合にどうして収縮しやすくなるのか,あるいは収縮しにくくなるのか,について検討を行っており,これらをとっかかりに収縮しないコンクリートの開発について検討を行っています。

shrinkage mechanism

自己収縮・線膨張係数

水とセメント比の小さくすると,乾燥収縮とは別に,セメントの水和自身に よって内部が乾燥し,収縮するという現象が確認されるようになりました。とくに150MPaを超える超高強度コンクリートにおいては,これらはセメントの水和反応と密接にかかわっておりますが,それだけでなく温度履歴にも大 きく影響を受けます。

当研究室では,温度履歴条件下においても全ひずみと温度ひずみを同時に測 定できる試験機を開発して,これらの現象を定量的に測定することに成功しました。その結果,冬場に打ち込み,水和発熱によって部材内部に高温履歴 を生じさせる時に,自己収縮の観点からひび割れリスクが最大になることを実験的に明らかにしました。これは,たとえば,部材を作成するときには練混ぜ水を暖かくしておくとか,あるいは部材の温度管理について何らかの手立てを打つことによって,ひび割れリスクを低減することが可能であることを示しています。

shrinkage behavior

shrinkage of high strength concrete

様々な測定方法

正確な測定、再現性の高い測定、必要な条件での測定というのは新しい評価にはかかせません。上にあるような「乾燥収縮」のところで紹介したセメント硬化体の収縮測定方法や「自己収縮・線膨張係数」で紹介した装置は、すでに10年以上の実績があり、さまざまな商品開発・論文化に貢献しています。この他にも、私共はさまざまな測定方法を用いて、理解できなかった物性を解き明かし、材料の高度利用や商品開発に応用しています。

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こちらの実験装置は、湿度発生装置と熱機械分析装置を合体化させた装置で、In situで温度・湿度・周囲ガス濃度を変化させながら、材料の応答を評価することができます。たとえば、中性化が生ずる際の体積変化を異なる湿度環境下・温度環境下で測定することができます。また、異なる湿度条件下での線膨張係数の測定などが可能です。現在までに、線膨張係数の相対湿度依存性(一部公開)、骨材の収縮と構成鉱物の関係、中性化時の収縮(未公開)、セメントペーストの長期乾燥後の収縮性状、など、いままでになかったデータを多く生み出してきました。

下の装置は最近導入した画像分析装置ですが、こちらでも適切な収縮挙動が評価できることを確認しています。こちらは、収縮だけでなく、加熱、応力条件下での寸法測定が可能で、多くの応用が期待できます。

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