セメントおよび混和材の反応分析

セメントと水が反応し,コンクリートは強度が出て構造材料として利用されます。コンクリートのさまざまな利点のもとは,この水とセメントが反応するという現象 にすべてが支配されているといっても過言ではありません。当研究室では,これらのメカニズムを明らかにするとともに数値モデルによって,コンクリート中のセメントがどのように反応し,どのような物性を生じさせ,どんな場合に劣化するのかということを評価・予測する技術の確立を目指しています。 従来の研究は,材料を持ってきて,実際に利用するときの調合で練り混ぜ,試験をし,カーブを引いて実際の設計に用いるというやり方を行ってきました。しかし,今後,低環境負荷型社会に建築が適応するためには,従来とは異なる材料や施工方法によって,建設時,あるいは建築物の生涯にわたる環境負荷を低減する必要があります。こういった基礎的な研究は,たとえば,低CO2排出量になるといわれる高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートの物性やその物性を確保するための施工方法の 提案などに役に立ちます。また,たとえば,中古住宅が今後市場に出てくると考えられますが,コア抜き試験などを行った場合に分析を追加し,より詳細にその建物の品質を評価する,といったことなどに応用が可能です。

水和反応メカニズムについて

当研究室では,様々な条件のセメントの水和反応をX線粉末回折/リートベルト解析やTG-DTA、FT-IR、Solid-NMR、1H-NMR Relaxometryなどの分析技術を用いて追跡し,セメントの化学反応に関するさまざまな現象を明らかにし、より高精度な予測モデルの構築を行ってきました。

・初期脱型時期がセメントの水和反応に及ぼす影響

・出荷維持のコンクリートがセメントの長期水和に及ぼす影響

・フライアッシュ、高炉スラグ、火山ガラス、などの副産物の効率的な利用や反応メカニズムの解明

・マスコンクリートにおける温度制御方法やセメントの反応がマスコンクリートのひび割れリスクに及ぼす影響評価

・高強度コンクリートの温度に依存する強度発現メカニズムの解明

などといったことを行ってきました。いくつかは企業との共同研究で未発表のものも多いのですが、多くの企業の開発にお役にたてると思います。ご興味のある方はぜひ、丸山・i.maruyama@nagoya-u.jp までご連絡ください。

machines tgdta x ray

図1は実験で得られた普通ポルトランドセメントの異なる養生温度,異なる水セメント比の反応率の時間変化です。ここにみられるように,セメントの反応は化学反応なので温度依存性を有していること,また,セメントペースト中の溶解・析出というプロセスを経ることから相互依存性が生じていそうなことがわかります。

data of cement

図2は,図1のような実験データに対して,エーライト(C3S)の反応率とビーライト(C2S)の反応率を同一材齢でプロットしたものです。異なる温度・水セメント比にも関わらず,一つのセメントについては,一つの曲線でその関係が明らかになることがわかります。

このメカニズムを考えるには,液相中のSiO2の濃度とCaO濃度,およびエーライト,ビーライト, C-S-H,水酸化カルシウムの溶解平衡を考えるとわかりやすいです(図3)。C3Sが水と反応するとまず,多くが溶解していきますが,その時,SiO2とCaOは1:3になっています(図3の(1))。その後,溶液が過飽和状態に到達すると析出プロセスが生じます。最初はC-S-Hが析出するものと考えられます。このC-S-Hが析出していくときにおいてもCaOの濃度は,水酸化カルシウムの平衡曲線に至るまで増加しつつけ(図3(2)),そうして水酸化カルシウムの析出も生じるようになります。その後,C3Sが溶解し続けますが,C2Sからみると溶液中の濃度が高いので溶け出しにくい状態が続きます。これが,図2において,C3Sの反応が0.9程度になるまで,C2Sの反応が 大きくならない理由だと考えられます。

水和反応モデル

このような複雑な反応を持つセメントですが,溶解反応・析出反応・水和生成物中の拡散挙動などをモデル化することによって,セメントの水和を数値的に表現することが可能になります。世界には,NISTチームのモデル(CEMHYD3D),オランダ・デルフト工科大学のモデル(HYMOSTRUC), 東京大学コンクリート研究室のモデル(複合水和発熱モデル)などがありますが,当研究室では,各鉱物の反応や,セメント硬化体中の細孔構造モデル,内部の熱力学的平衡モデルを導入したモデルCCBM(Computational Cement Based Material model)を開発しました。このCCBMは、原子力規制庁におけう高経年技術評価の参考解析とされたり、その他、重要構造物の物性予測などに用いられています。

建設材料の硬化反応の

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