コンクリートをつくるとき、骨材の選定が不適切な場合には、アルカリ骨材反応とよばれる非回復性の劣化が生ずる最悪の状態が生まれます。骨材中のガラス質や溶解速度の大きいシリカ系鉱物が骨材の中にあると、材料に内在するアルカリ金属の溶融によってコンクリートの中の水のpHが増大し、これらの物質が溶解、シリカゲルが生成されます。このシリカゲルは吸水・膨潤するため、コンクリート内部で多数のひび割れを生じさせ、コンクリートを劣化させます。
そのため、コンクリートをつくるとき、骨材は非反応性のものを気をつけて選出します。
しかしながら科学的には、まったく非反応性な骨材というのは存在しません。
そのため、50年、100年という建築物・建設物を考える上で、これらの挙動を理解することは大事です。
我々は、建設後、約50年経過したコンクリート構造物について、化学反応、微細構造、コンクリート物性、構造特性の観点でのマルチスケール研究を行っています。その中で、特に極厚部材(1m以上のあつさの壁)において内部が設計基準強度の3倍にもなっている場合があることを発見し、そのメカニズム解明にとりくんできました。
図1 1.5m厚さの内壁内の強度分布
図2 生体遮蔽壁における強度分布
今回、X線回折/リートベルト解析の分析手法をコンクリートの系にまで拡張する手法を開発し、20以上の鉱物を同時にフィッティングして内部に生成する反応を推定することが可能になりました。また、その他にも酸・アルカリ溶解を用いた岩石量の推定、SPring-8を用いたマイクロXRD(微小部X線回折/リートベルト法)などによって今も分析の深化をつづけています。(セメントおよび混和材の反応に関する研究参照)
図3 生体遮蔽壁内部における各鉱物の分布
図4 含水率、可用性アルカリ金属量、骨材の反応率、平衡相対湿度の分布
図3にありますように、これは、生体遮蔽壁内部において各鉱物の分布を確認したものですが、ここに見られるように、水酸化カルシウムが内部で消費され、Al-トバモライトの生成が確認されました。このとき、内部には、骨材の反応が進む傾向がみられること、それらは、含水率と大きな相関があることが確認されました。
Al-トバモライトは、ローマン・コンクリート中にも発見され、今、ホットな研究対象鉱物の一つです。海水の中、あるいは初期高温履歴によって生成されるのでは、という議論があったのですが、今回の対象の部材ですと、想定温度は40~50℃です。これらの温度で、たった50年せ生成された、ということは鉱物生成の観点から大変興味深い結果であると言えます。(詳細はこちらを。WEB1、2、3)
実際に確認するために、電子顕微鏡で組織観察をしてみた結果が以下のものです。図5には、きれいなトバモライトが確認できます。この組織構造は、たとえば、ヘーベルハウスなどで利用されているALCの組織と非常に似通っています。また、図6は研磨面による観察ですが、骨材の周囲にAl-トバモライトが生成されていること、また、骨材が軽石のように疎な組織になっていて、反応がすすんでいることがわかります。骨材が反応していることの証拠です。
セメントの水和物である水酸化カルシウムと骨材中の長石類が反応し、Al-トバモライトが生成したものと考えられます。
現在、当研究室は関連の共同研究先と、この反応メカニズムやそれによって生成される組織の全貌解明、および物性予測モデルの構築、部材の健全性評価(耐震性能評価も含む)に取り組んでいます。
図5 SEMによる二次電子像
図6 研磨面のSEMによる反射電子像